円周率の近似と精度

 円周率の近似値を求める古典的な方法としてよく知られているものに、円をそれに内接する正多角形と外接する正多角形で挟む、というものがあります。

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円に内接する正六角形と外接する正六角形

この記事では、この方法によって求められる円周率の精度について考えます。

 初めに、円周率の近似値を求める方法を簡単に説明します。円の半径を1に取ると、円の面積はちょうど円周率$\pi$になります。3つの図形の面積の大小関係は$$(内接する正多角形の面積) < (円の面積) < (外接する正多角形の面積)$$となるので、2つの正多角形の面積によって円の面積、つまり円周率$\pi$が上下から評価できます。ここで、正多角形の頂点数を$n$とすると、十分大きな$n$をとれば、2つの正多角形の面積の差は十分小さくなり、望みの精度で円周率$\pi$の近似値を得ることができます。以下では、円周率の近似値の精度は2つの正多角形の面積の差で定義されるものとして、正多角形の頂点数$n$に対しこの値がどのようなオーダーで変化するかを考えます。

 以下、円周率$\pi$の存在を仮定しますが、その具体的な値は使用しません。円に内接する正多角形の面積を$s_n$、円に外接する正多角形の面積を$S_n$とすると、高校数学の範囲の簡単な計算により、それぞれ \begin{align*} &s_n = \frac{n}{2}\sin\left(\frac{2\pi}{n}\right) \\\ &S_n = n\tan\left(\frac{\pi}{n}\right)\end{align*} で与えられることがわかります。ここで、$n$が十分大きいとして、$\sin,\tan$をそれぞれTaylor展開すると、\begin{align*} &s_n \simeq \pi - \frac{2\pi^3}{3n^2} \\\ &S_n \simeq \pi + \frac{\pi^3}{3n^2}\end{align*}となります。したがって、多角形として正$n$角形を用いた場合の円周率の精度$\text{Error}(n)$は、$$\text{Error}(n) = S_n - s_n \simeq \frac{\pi^3}{n^2} $$となり、$\mathcal{O}(n^{-2})$のオーダーであることがわかります。